2.川添 航(立正大学 地球環境科学部地理学科 助教)

〇テーマ:

現代日本における葬送観の変容と仏壇・仏具店舗集積地域の存立形態

○実施内容

本研究の目的は、現代日本において仏壇・仏具店舗集積地域がどのように維持・存続しているのかという点を装具の流通・消費構造の変化から解明することである。その際に、人々の葬儀・葬送に対する認識(葬送観)の変化を踏まえ、装具・葬祭用品に対する価値・意味づけがどのように変化し、個別の仏壇・仏具店舗や同業者組織が以上の需要の変化にどのように対応したのかを、店舗集積地域における各店舗の経営状況や販売促進活動などの分析を行った。また、冠婚葬祭業界、および伝統工芸・仏壇業界をめぐる市場動向を把握するため資料の収集・複写を実施し、それぞれの地域の協同組合(上野・浅草仏壇通り神仏具専門店会、名古屋仏壇商工協同組合、名古屋仏具卸商協同組合)の代表者に聞き取り調査を実施した。

○事業の効果

宗教用具製造業や仏壇・仏具産業の全国的な市場動向について、経済指標等の統計情報を分析し明らかにすることができた。2000年以降の信仰祭祀費に関する動向をみると、2000年時点で1万8,257であった平均支出額は減少傾向にあるものの、世帯の消費総額に占める割合は0.5%程度を維持しており、その位置づけにほとんど変化はない。しかしながら、仏壇・仏具販売業の出荷額は1990年代以降激しく減少しており、核家族家の展開による世帯構造・住宅環境の変化が仏壇の購入にも影響を与えている点が指摘できた。次に、東京都台東区、愛知県名古屋市という国内有数の仏壇・仏具産地が抱える課題について、協同組合の活動や市場動向の変化に対する具体的な取り組みについて情報を得ることができた。各地域の仏壇・仏具業界は衰退傾向にあり、店舗の閉鎖や協同組合からの脱退が相次いでいる。しかし、協同組合ではイベントへの出展・運営を通じて仏壇・仏具産業のPRを図っていた。アンケート調査・聞き取り調査の結果からは、個別の店舗が抱える課題や、葬送観の変容に対する経営者の対応についてデータを取得することができ、多くの仏壇・仏具店舗の売上最盛期は1980年から1990年代が中心であり、家族経営であり後継者も未定であるが、新たな商品の開発や通信販売への参入により、消費者の指向をとらえた製品開発に着手する店舗がみられるなど、需要の変化への対応もみられた。本研究の結果からは、現代日本の生活文化と密接に関連する宗教工芸品産業や、地域社会における冠婚葬祭の位置づけを明確化し、冠婚葬祭文化の課題や振興策、持続性につながる示唆を得ることができた。

〇掲載資料: