〇テーマ:
シェアリングエコノミーを活用した高齢者と地域をつなぐ社会参加 ~地域で助け合うコミュニティケアの実践の試み~
〇概要:
コミュニティケアを考える上で、高齢者の生活の困難を知る必要がある。高齢者自身の自助努力による解決も必要であるが、社会の環境に課題があることがほとんどである。よって高齢者の視点で生活のしづらさについて理解し、社会環境の変容を示唆することを目的としたプログラムを開催した。
またテーマは近年特に重要な課題となっている認知症高齢者の社会生活とした。それは早期よりサポートが必要とされているが、まだ環境は未整備であり対応が大きく遅れているためである。特に地域サポート、ICT、社会参加といったキーワードが大きく関わってくる。
〇実施内容:
- 平成30年
- 8月31日
- シンポジウム「認知症にやさしい社会を考える~脆弱な消費者の支援のあり方~」
参加者 54名 - 9月2日
- セッション「認知症にやさしい交通vol.3 各地の先進事例から考える~私たちのまちの交通~」
参加者 40名 - 12月17日
- カフェロマン会議~認知症にやさしいまち つくばのデザイン~
参加者 40名 - 12月17日
- みまもりあいプロジェクトの勉強会、高齢者版生活サポートツール「みまもりあいアプリ」の検討
参加者 40名 - 平成30年10月
~平成31年2月 - 月1回開催されている「まめいち(つくば市大角豆地区でのコミュニティマーケット)」への参加
参加人数述べ220名 - 平成31年
- 1月25日
- 高齢者のバス外出での利用検討~エスノグラフィー調査
参加者 6名 - 2月26日
- アルテナラミーティング 参加者 5名
アルテナラ講座 参加者 10名 - 3月10日
- カメラで地域魅力発見講座 参加者 10名
- 3月18日
- 地域ライター講座 参加者 8名
- 3月20日
- アルテナラワークショップ 参加者 4名
〇事業の効果:
実施前の課題では、コミュニティ機能の衰退と共に各世代の孤立化が顕著となり、その結果高齢者の社会参加の機会が失われた。さらなる不健康や世代間分離がすすむ悪循環となり、より一層つながりの希薄化や地域機能の衰退に繋がっており、地域包括ケアシステムが目指す、相互扶助による地域作りは困難なものとなっている。
本事業の目的の一つは高齢者の社会参加を促進する、地域に貢献できる、地域に支えあいができる場作り(地域の環境力)であるコミュニティケアを実現することである。
もう一つはその促進ツールとしてシェアリングエコノミーとICT活用について生活や能力に即した検討を行った。事業開始により具体的に「高齢者の生活課題の学び」「高齢者の社会参加の機会」「地域内マッチング」を行ったことで、多くの場面や関係者の声に変化が見られた。その内容を①シェアリングエコノミーという地域ニーズとスキルのマッチング、②集まる場から関係性を深まりより起こったコミュニティ機能のバージョンアップ、③生活課題の理解と密着したICTサービス(リモコンのような)の提供の必要性といった3点にカテゴリー分けを行い、効果を示す
①シェアリングエコノミーという地域ニーズとスキルのマッチング
・地域との接点
コミュニティマーケットである「まめいち」の参加や準備によりシニアと地域の子供たちとの接点を作った。イベント運営者からは「まめいちでお年寄りの子どもへの関わりかたがとても優しい対応で母親からも喜ばれている。」との声があり、豊富で懐の広い関わり方が地域に感謝されていた。シニアのスキルを活用し子育てなど地域貢献できる体験をイベントの中で行う場面は自然と多く見られていた。
シニアからも子供達への貢献への希望が聞かれており、さらに関わりを持つためにアルテナラ講座を開催した。その中でアートに関するワークショップに参加したシニアは自らの豊かな体験で語られていた。過去の時代の語りを聞くだけでも子供達にとって刺激になるだろうと竹丸氏よりフィードバックがあり、様々な体験を語られていた。その講座をもとにプログラムの開発を行った。
・場を楽しむ
サポートにより参加されていた認知症の方が店舗の手伝いを依頼した。サポーターの方は「認知症と言うと何もできないと思われてしまうと思われるが、ここでは一緒に働くことができることが良い。」と述べられていた。様々な店舗でボランティアを行う機会を作っていた。認知症当事者の方は「もっと何かできることがあるはず。できればDJをやりたい。」と前向きな発言を述べられていた。また「包括支援センターなど行政にはできれば世話になりたくない。できればみんなの役に立ちたいんだ。」と社会貢献を行いたい気持ちがあり、積極的な関わりへの意欲が聞かれた。地域のサポート体制が整うことで意欲が見られ、様々なチャレンジを自然とできる場の設定が場を楽しめたことに繋がっている。
②集まる場から関係性を深まりより起こったコミュニティ機能の進化
・緩やかで多様なコミュニケーション
活動の中でコミュニケーションをとる機会が増えるようにした。多世代が自然と集まる雰囲気がみられており、挨拶をすることが増えていた。「趣味や専門性など様々な背景の参加者がいることがわかり、共通の趣味や相談事について人を紹介してくれた。」との声が聞かれた。このような緩やかなつながりから関係性が深まるとコミュニティケアの可能性も高まってくる。
・事前のサポートによる安心感、気軽なサポートによる安心感
車椅子ユーザーに相談を受け、バリアフリー状況を伝えることで、イベント参加を促すことで「来てみようと思えました」と参加に繋がった。また別の車椅子ユーザーでは出店をしたい希望があり、事前に移動や販売体制について相談をのり必要に応じて環境を整えていった。農作物の販売や来場者と数多くコミュニケーションをとっており、次回からの意欲的な取組に繋がっている。
つながりが増えてくる中で地域住民の方から近隣の民生委員が抱える悩みを相談される。「担当に閉じこもり高齢者がおり、外出することをせず、生活にも支障が出ているが手助けを受けようとはされず困っていた。」とのことである。その後まめいちに誘うことができ、一緒におしゃべりをするなど時間を作り、満足して帰られていった。地元住民の方からは「閉じこもってしまうシニアが近所にたくさんいる。助けようと思っても断ってしまう。地域の人や民生委員さんが関わっているが困っている。気軽にぶらっと出かけられる場所としてまめいちがあることがとても良い。」と地域の中でも参加目的の広がりが増えて来ていた。
また遠方の認知症の方で外出する手段がなく参加ができないと相談を受けた。サポーターの方と外出する方法を検討し、公共交通を活用して外出することができた。介護サポーターの方からは「認知症でも周りの環境次第でいろいろなことができることがわかりました。」と話されていた。
運営者より「いきなり手伝いますにはならない、でも知っている人がいるならやるよ、といった光景が見られている。介護者もサポートしたい。介護者は気軽におしゃべりができ、グチがいえる場所も大切だと思う。」とのことであった。ハンディキャップを持った方が参加したことで周囲の参加者の意識も変わり、またコミュニケーションをとることで相手を理解し、できることを手伝ってもらうことや配慮をする機会が増えてくるなど、場を持つ機能が相互扶助を自然とできるものとなっていた。
③生活課題の理解と密着したICTサービスの提供の必要性と注意点
・生活に身近であること
高齢者より「スマホ講座に出たが我々が知りたいのはインスタグラムではない。生活に結びついて利用方法である。何か役に立つ使い方はないか」と相談を受けた。実際に心身機能の低下により困難が見られてくるが、居住地域の環境面の特性を踏まえて解決する必要がある。情報をどのようにとるのかといった点も重要であり、地域に身近であり高齢者にとって有益な情報へのアクセスも必要である。みまもりあいアプリなど既存のものを地域と共有し、家族とともに学習していく機会も必要である。
・使いやすさ、覚えやすさ
使い方を聞いただけでは難しく実際に繰り返し利用しながら学ぶ必要がある。例えば公共交通機関を利用した外出など便利に使える可能性は示唆されたが、難易度が高い。「一緒に実地でできること」、「いつでも確認できること」、「困ったら助けを呼べること」などのサポートが必要であり具体的なサポートのあり方について示唆を得た。また楽しみとなる活動、社会参加活動を行いながらスマホを利用する機会を作る活動も検討した。
〇まとめと今後の課題:
地域の場を育てていくことで多くの化学反応を見ることができ、コミュニティケアを実現のためにはプロセスが必要であり、次の流れがあることがわかった。
・コミュニティケアを実現する場づくりのために4つのステップ
①シニアが社会参加を行い地域住民と顔の見える関係を築く、接点を作る(受動的参加)
②地域の課題とシニアの貢献できる分野を知り、スキルマッチングさせて企画を立てる。(能動的参加)
③地域住民間の信頼性・理解が増し、挨拶、声掛け、手伝いが増える(相互扶助)
④多様な地域住民が参加し、ネットワークが拡大する
※そして各段階に応じてサポートファシリテート、コーディネートが必要である。
今回の取り組みの中でも地域のキーマンが中心となり地域のつながりをさらに広げていった。今後の課題としては、地域の核となるファシリテーターを育成し、多くの方に社会参加を促す取り組みを増やしていくことが重要となる。能動的参加を促すために活動の持続可能性を得るために、プログラムを作成し、今後も引き続き実践を行っていく予定である。