2018(平成30)年度(第20回)6.国立大学法人 筑波大学 筑波大学付属大塚特別支援学校

〇テーマ:

「知的障害のある高校生の心のバリアフリー交流」

〇概要:

①知的障害のある高校生が、喫茶運営を通じて地域の高齢者介護福祉施設で利用者や支援員と交流を行う。喫茶の運営(えがおカフェと称している。以下、えがおカフェ)を通じて、障害のある生徒にとって「人の役に立つ」「人に喜んでもらう」経験を通じてキャリア形成をねらうとともに、地域の高齢者とのインクルーシブ交流の場とする。
財団からの助成金は、製菓材料、飲料サービス用のカプセル(ドリップマシン用)、主に製菓作業時の衛生管理に関する消耗品(アルコールスプレーやマスク、帽子、手袋など)などに充てる。

②知的障害のある高校生が、知的障害のない高校生と野外活動やアダブテッド・スポーツを通じたインンクルーシブ交流を行い、障害のある生徒と障害のない生徒の相互理解を深める。また、知的障害児本人への聞き取り調査から効果的なカリキュラムについて分析する。
財団からの助成は、8月27日のサマーデイキャンプ実施に関わる経費(双方の学校から筑波大学までの移動に用いた観光バス借り上げ代、および、野外運動の指導助言をいただいた講師5名への謝金)に充てる。

〇実施内容:

1.校内カフェ運営を通じたカフェ運営の実地訓練
喫茶サービスを展開するにあたって、製菓班内で生徒同士が客役、スタッフ役を演じるロールプレイを行った。その後、実地訓練として「校内カフェ(保護者が行事や研修などで集まる機会に、保護者対象に喫茶サービスを行う)」の運営を行った。障害のある生徒たちに配慮と理解のある保護者を対象にした実地訓練を通じて生徒たちは注文を取ること、注文を受けたものを準備すること、配膳・下膳するなど喫茶運営に必要な活動を自信を持って、また、班のメンバーと協力して行うことができるようになった。

2.高齢者福祉施設でのカフェ(えがおカフェ)運営
教育課程にある「ライフキャリア学習」において、製菓・清掃に取り組む学習グループが、学校近隣の介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)洛和ヴィラ文京春日において「えがおカフェ」を年間7回実施した。午前中に校内で製菓を行い、午後に施設へ移動、談話室に集まった利用者や職員の方々へ注文を取りサービスを行った。

3.学校近隣の官公庁におけるカフェ(えがおカフェ)運営
警視庁第5方面隊の庁舎は、大塚特別支援学校のすぐそばにある。大型バスを校内へ乗り入れることができないため、宿泊を伴う行事などでは第5方面隊の庁舎に乗り入れをお願いする、毎月行う避難訓練にスクールサポーターを派遣していただく、生徒指導にご協力いただくなどの友好関係を築いている。そんな第5方面隊庁舎に勤務されている職員の皆さんを対象に、カフェを運営する機会をいただくことができた。

4.サマーキャンプ
2019年8月27日に、筑波大学野外運動研究室の教員、所属学生、卒業生の協力を得てASE*(Action.Socialization Experience:社会性を育成するための活動体験。以下ASE)を実施した。活動終了後には、グループごとに振り返り活動を行い、発表会を通じて全員で共有した。活動中は、指導者から「仲良くする」「協力する」「挑戦する」という3つの目標を提示され、活動に取り組んだ。
*ASEとは、小グループ(10人程度)が一人では解決できないような心理的、身体的課題(たとえば、全員で3mの壁を乗り越えるなど)に対し、メンバーが、アイデア、あるいは意見を出すなど話し合いをし、協力しながらその課題の解決に向けて取り組む活動である。また、グループには、指導者が付き、課題を設定、提示し、個人の心と身体の安全に配慮しながらグループの取り組みを支援する。

〇事業の効果:

1.校内カフェ運営を通じたカフェ運営の実地訓練
実際に外部の方を対象としたカフェを行う前に、作業班内でのロールプレイ、保護者等を対象にした校内カフェの運営、その後に外部のカフェを運営するという手順は、知的障害のある生徒たちにとって、徐々に課題を挙げていく意味で非常に効果的であった。しかしながら、接客のスキル(配膳や下膳など)、お客様への心遣いなどは、班内のロールプレイや教師の指導だけでは理解が進まない部分も見られた。今後は、カフェ運営を行っている企業の協力を得て、プロの接客マナー、配膳のスキル、心構えや心遣いを学ぶ機会を設定していきたい。

2.高齢者福祉施設でのカフェ(えがおカフェ)運営
利用者の方からは、毎回、「美味しかったよ」「またきてね」と、来店時や居室にお帰りになるときに声をかけていただくことができた。
ヴィラ文京春日は、3階建ての特別養護老人ホームで、1フロアごとに「えがおカフェ」をご利用いただいている。2~3回利用している方は、生徒の顔を覚えていてくださって、「また来たよ」「なんだか、見たことあるね」など、直接、生徒に話しかけてくれる。

また、利用者の家族の方も、「こんなに美味しそうなのを食べられて、よかったね」と、話し掛けながら、摂食の介助をしている。
職員の方からは、毎回、改善点のアドバイスをいただいたり、注文票の工夫をしてくださったり、お互いに、気持ちよく利用、運営できるようになっている。
例えば・・・飲み物を先に、提供してほしい。→お年寄りを思いやる気持ちが育った。
柔らかいお菓子の方が、食べやすい。→プリン・スフレチーズケーキの開発
食器の工夫→紙の焼き型から陶器
一人ひとりの利用者の方が、何をオーダーしたのか記録をする用紙を職員側でも準備。

また、学生さんが来てくれると、利用者の方の表情が明るくなるとの評価もいただくことができた。運営の最終日には、「また4月からも来てね」「3月は、もうないの?」と、惜しまれるような声がけをしていただき、生徒も、「また4月からきます!!」と、張り切って答えていた。
施設側、学校側、どちらもに成果を見ることができた。継続して取り組んでいくことの意義を強く感じることができた。

3.学校近隣の官公庁におけるカフェ(えがおカフェ)運営の試行
1度きりの試行であったが、約50名の方に利用していただいた。ひっきりなしに、お客様となって、警察官の方々が来てくださった。準備していた水がなくなり、温かい飲み物が提供できなくなったり、お菓子も売り切れたものがあったり、行列のできる大盛況であった。
「お菓子は手作りなの?」「何年生?」「お金はいらないの?」「どれがオススメですか?」など、たくさんお声がけいただいた。生徒は、最初は緊張した様子であったが(警察=怖いというイメージ)、徐々に、お菓子の紹介をしたり、オーダーシステムの説明を自分からしたりできるようになっていった。
「4月からも、何回か繰り返し来てもらえたら、生徒さんも慣れてくれますか?」と担当の方からお話をいただくことができ、新年度からも、開催できる見通しを持つことができた。

4.サマーキャンプ
交流の中では、交流中の共有体験の内容や、その感想はもちろんだが、趣味の話など日常生活が盛り上がる話題となっていた。今後は、「交流会のその時」以外にも、日常的にお互いの学校生活の様子を伝え合うなどの情報交換をすることができると、より相互理解が深まることが予想される。「交流会の場所へ移動すること」、「日程を調整すること」、「交流内容を検討すること」などの大きなコストをかけることなく、意義ある交流及び協同学習を行うことができる一つの方法として取り組みたいと考える。

〇事業者のコメント:

本事業で取り組んだ2つの柱は、非常に意義深い取り組みであった。今年度の取り組みから多くの成果が明らかになり、また、より効果的な取り組みにするための課題も見つけることができた。
次年度も資金を獲得して、継続・発展的な取り組みを目指していきたい。